11月30日 名曲100選 歌劇のアリア篇・63 氷のような姫君の心
プッチーニが未完成のまま亡くなった最後の歌劇作品が「トゥーランドット」です。「トゥーランドット」はフランスのルイ14世時代の東洋学者フランソワ・ペティ・ド・ラ・クロワが出版した「千一日物語」(千一夜物語とは別物)の中の「カラフ王子と中国の王女の物語」をベースにヴェネツィアの劇作家ゴッツィが1762年に著した戯曲を元に作曲された3幕もののオペラです。
古の中国、北京を舞台が舞台となります。美しいトゥーランドット姫(皇帝の娘)に求婚する男は彼女の出題する3つの謎を解かなければならず、解けない場合はその男は斬首されると宣言されます。国を追われて放浪中の身であるダッタン国の王子カラフはトゥーランドット姫を一目見てその美しさの虜になります。父親のティムール、召使のリュー、宮廷の3大臣ピン、ポン、パンが思いとどまるように説得しますが、カラフは自らが新たな求婚者となる事を宣言します。
トゥーランドット姫は、自分が何故このような謎を出して求婚を断ってきたのかを冷ややかに語ります。かつて異国の男性に騙され絶望の内に死んだロウ・リン姫に代わって世の全ての男に復讐するためだと。
カラフは第1の謎「毎夜生まれては明け方に消えるもの」=「希望」、第2の謎「赤く、炎のごとく熱いが火ではないもの」=「血潮」、第3の謎「氷のように冷たいが周囲を焼き焦がすもの」=「トゥーランドット」と次々に正答を出します。
結婚などしたくないとゴネるトゥーランドット姫に対しカラフは1つだけ謎を出します。「私の名は誰も知らないはず。明日の夜明けまでに私の名を知れば、私は潔く死にます」と提案します。
北京の街にはトゥーランドット姫から「今夜は誰も寝てはなりません。求婚者の名を解き明かすことができなかったら住民は皆死刑にします」と命令が下ります。
カラフの父親のティムールと召使のリューは求婚者の名を知る者として捕らえられ拷問を受けますが、リューは衛兵の剣を奪い取って自刃します。・・・プッチーニはこの場面以降を未完のまま亡くなり、遺されたのは23ページにわたるスケッチのみでしたが、それをフランコ・アルファーノが補作し1926年に完成しています。
最後は、リューの献身を目の当たりにして姫の冷たい心にも変化が生じ、トゥーランドット姫はカラフを愛するようになっていきます。トゥーランドット姫は彼の名は「愛」ですと宣言し、群集は愛の勝利を賛美して幕を閉じます。
「氷のような姫君も」はプッチーニ本人が書いた最後のアリアで、第3幕で捕らえられたリューが自刃する直前に歌った曲。歌詞の中に「この夜明けの前に 私は疲れた目を閉じます」と自害を示唆する内容が歌われています。メロディ自体も東洋を意識したものになっています。
トゥーランドットの中ではフィギュアスケートなどで広く使われている「誰も寝てはならない」が最も有名ですが、クライマックスでも歌われるこのアリアの方がドラマティックな点では数段上だと思います。