前プロのモーツァルト作曲歌劇「フィガロの結婚」序曲。
あまりに有名なモーツァルトの序曲の代表作。2管編成のこじんまりとした編成ですが、その中にモーツァルト特有の大きなスケール感を感じさせる曲です。
基本的にシュトラウス一家やランナーなどのウィンナ・ワルツ、ポルカやカドリーユといった音楽しか扱わないウィーンフィルのニューイヤーコンサートで、たった1度だけ古典派音楽が演奏されたその曲が、この「フィガロの結婚」序曲でした。それ程ウィーン子に親しまれる曲なんでしょうね。
実は、この序曲は、本編に出てくるメロディは全く登場しません。しかしながら、この序曲を聴くと、何か明朗でちょっと悪戯っぽくワクワクするような感じがしませんか? 「フィガロの結婚」本編は、勿論浮気っぽい伯爵、思春期で多感なケルビーノ、ロッシーニが後の作曲した「フィガロ」の前の話「セヴィリアの理髪師」を見ればわかるように大恋愛の末伯爵と結ばれた伯爵夫人のロジーナ、ユーモアがありちょっと悪戯好きで調子もののフィガロと賢く機知に富んだフィガロの婚約者スザンナ、腹黒い医者のバルトロなど、様々な性格の登場人物がいますから、勿論単純に明るいだけの曲では無いのですが、こういう性格の人々がガチャガチャと登場して自己紹介をしているように聴こえてきます。
冒頭は、ファゴットと弦楽器のTutti(重奏)で有名なテーマが演奏されます。Prestoという非常に早いテンポで、我々アマチュアコントラバス弾きには、グリンカの「ルスランとリュドミラ」、スメタナの「売られた花嫁」と並んでバシスト殺しの序曲のひとつです。このテーマは実はファゴットやチェロ・バスといった低音楽器でテーマを弾かせたかったのですが、こんな早いメロディを運動性の悪いファゴット、バスだけで弾いた日には、何だか良く判らないメロディになっちまうという事で、ヴァイオリン、ヴィオラを補助的につけて重奏にした・・・というのは私の説ですが、木管で唯一ファゴットだけを使ったという事からも以外に説得力あるでしょう。
で、冒頭が何故難しいかと言うと、勿論指が回らないとか、ただでさえ指が回らない中で突然半音の音階が出てきたりと変化まで求めている。更に難しさに輪をかけているのが、ピアニッシモであるという事です。人間、一所懸命弾くと、ついつい力が入ってしまいますよね。そのためについつい大きな音になってしまいます・・・が、ピアニッシモなんです。聴こえるか聴こえないかわからないような音量(現に録音の古いレコードなどでは冒頭のところはノイズに埋もれて殆ど聴こえないものもありました)が要求されているのです。なので、バシストはこの場所は弾ける・弾けないに関わらず、涼しい顔で弾く事に決めています(笑)。結構涼しい顔をして弾いていると上手そうに見えるかもしれません・・
この曲はソナタ形式で書かれていますが、第2主題もこの冒頭の主題と同じようにユーモアがある楽しい曲なのですが、さらに軽さが加わっています。再現部にあたる部分ではちょっと転調などを見せながら、またバシストに地獄を味合わせてくれています。
最後はロッシーニクレッシェンドのようなクレッシェンドによる盛り上がりを見せて終わります。
この曲、アマチュアオケではかなりの頻度で演奏されますが、こういう曲は本当のところダイナミックレンジをきちんと表現し、軽くて、時々ユーモラスな旋律が出るけど基本的に重たくならないように演奏するというのは、結構難しい事です。